北茨城市民病院 循環器内科 山尾秀二
心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしています。心臓の中には血液が逆流しないように四つの弁があり、その一つである大動脈弁は心臓の出口にあり、心臓が送り出した血液が逆流しないようになっています。この大動脈弁が加齢などにより硬くなり、弁が開きにくくなって血液の流れが妨げられてしまう病気が大動脈弁狭窄症です。近年の高齢化に伴い増加傾向にある疾患です。
大動脈弁狭窄症は、軽度のうちは症状もなく経過しますが、高度になると症状(胸痛発作、失神、心不全)を伴うようになります。これらの自覚症状がもとで病院を受診して診断されることもありますが、他の疾患で受診した際に心雑音が聴取されたり、胸部CT検査で大動脈弁の石灰化を指摘されたりして疾患が判明することもあります。
この疾患は、症状が現れると自然治癒することはなく、人工弁置換術という外科手術が必要となります。手術をしない場合の生命予後は胸痛発作が現れると5年、失神が現れると3年、息切れや呼吸苦などの心不全が現れると最も悪く2年と言われています。また、何らかの症状があると突然死の危険性もあります。
しかしこの疾患は高齢者に多く、これまでは手術が必要でも手術困難なため手術できない場合もありました。そこで最近は、このような手術困難例に対して経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)という治療が選択可能となりました。この治療は従来の人工弁置換術と比較して、開胸や人工心肺も使わないため体に対する負担がかなり少なく、80歳を超えるような高齢者でも比較的安全に治療を受けることが可能です。今や大動脈弁狭窄症は、高齢者であっても適切な治療法を選択することにより完治できる可能性のある疾患となったのです。